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知らぬも又ほとけ?

早速役立った“ものは考えよう”

「コンチワ、え~コンチワ。縁先からごめんなすって、ご隠居さんおいでですかい?」
 何だね、朝から賑やかに・・・。おや、誰かと思ったら留さんかい。暫くだね~
「ヘイ、ご無沙汰で申し訳ございやせん、ちょいと、遠出をしておりやして・・・。これ、つまらん物ですが。」
 おや、いつも申し訳ないね、ありがとう。で、何だね今朝は?
「ヘイ、先ずはご無沙汰お詫びのご機嫌伺いでござんすがね。
それと、先だってご隠居さんに“ものは考えようで明るくも暗くもなるからしっかりおしよ!”ってハッパ頂きやした。それが早速役立ちましたので、そんなお話しも」 ←12/23のブログ記事を参照ください。
 そりゃまた、ご丁寧な。
「伊那のはずれにアッシの兄貴分がおりやす。いつかお持ちいたしやしたあの饅頭を作っているオヤジなんですがね。それが、ここのところトント便りが絶えておりやしたので、“便りのネ~のは無事の証拠”と思いながらも気になったんすが・・・。
 それも随分になりやすんで、人を頼んで訊きやしたところ、何と丁度二年半前に仏になっておりやした。他ならぬ付き合は二人の息子もよくよく承知をしておりやしたのに何て~ことだ! と頭にきましたが、死んじまったものはどうしようもござんせん。例え、葬式に行ったとしても同じ事でござんしたから。
 今日行って線香をあげてきましたがね。しみじみ位牌に向かってみますとね、仏になったのを知らなかったからこの二年半、兄貴が生きているつもりでオイラは過ごしてきたわけで、その分ほかの誰よりも長く一緒に居られたんだと考えちまったんすよ。そう思ったら、頭の血も下がって何だかちょっぴり幸せな気分にもなりましてね。」
 留さん、あんたらしい優しさだよ。よくそこへ気持ちを持っていったね。
「これもご隠居さんのお陰で・・・。でもね~ご隠居さん。こいつとでなけりゃ通じない話しってもなぁあるもんでして、もうそんな話しができねぇって思ったら寂しくなりやして、おいらも人の子、つい涙を拭いちまいました。」
 そういうもんだよ・・・。この歳になるとね、そんな事がしょっちゅうだよ。でもね、長く生きた分、沢山の土産話が持っていけると思えば、ソレそこは今日の励みにもなるというものじゃないかね。
「ありがとうござんす。ご隠居さんに聞いてもらうと、荷が下りるばかりじゃねぇっすが、気持ちも楽になりやすし、また明日!という気にもなりやす。」
 お茶を淹れなおそう。
「いや、もうたくさんで。これから、松を採りに山へいってきやす。ご隠居のところの分はいつものとおりでようござんすか?」
 すまないね~、ありがとう。それと留さんや、ご隠居さんはよしとくれよ。確かに息子に仕事は任せているけれど、お前さんとは大して違わない歳なんだから。他の人はいざ知らず、お前さんにご隠居さんと呼ばれると、何だか早く老け込むような気がするよ。
「それはどうも! これからは気を付けやす。それじゃぁ、ごめんなすって、ハイご隠居さん!」

 享年76歳、まだまだ一緒に高笑いできるはずの人だった。 合掌

 


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